ダン・ジャンセン(アメリカ)

リレハンメル:スピードスケート男子1000メートル金
 メダルの獲得数だけで言うなら、「名選手」の中に入れるのに抵抗があるかもしれない。80年代から世界最強の名をほしいままにしながら、 五輪で得たメダルは1つだけ。しかし、ジャンセンが見せた数々の人間ドラマは、勝つことの難しさ、 さらにはその困難を乗り越えた勝利が与えてくれる感動を、まざまざと見せ付けた。

 80年代を通じて、頭一つ抜けた存在だったジャンセン。しかし、不思議と五輪のメダルには縁がなかった。サラエボ、アルベールビルでは、 わずかなタイム差でメダルを逃し、カルガリーでは大会直前、白血病で姉を亡くしたショックが残ったのか、500、1000メートルとも転倒という、 最悪の結果に終わった。いつしかこう呼ばれるようになった、「無冠の帝王」と。

 リレハンメル当時は、500メートルの世界記録を保持し、優勝の最右翼と見られていた。スタートは、6年前のカルガリーと同じ、 2組イン。しかもこの日が姉の命日である。因縁のレース。結果、「ハートブレイク・ターン」と呼ばれた“魔のカーブ”でスリップし、最悪の8位−。

 しかし、最後の最後にドラマは待っていた。1000メートルでは、2度もバランスを崩しながらも“魔のカーブ”を切り抜け、 世界新記録でついに念願の金メダルを勝ち取ったのだ。亡き姉と同じ名前をつけた愛娘・ジェーンちゃんを抱いてのウィニング・ラン。 「無冠の帝王」が本物の「帝王」になった瞬間を、世界が目撃した。


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