マッチ・ニッカネン(フィンランド)

サラエボ:ジャンプ90メートル級金
カルガリー:ジャンプ70メートル級、90メートル級、団体金
 人間が「飛ぶ」ジャンプ競技。チャンピオンに与えられる称号はどの時代も「鳥人」だが、ニッカネンほど「鳥人」の名を頂くにふさわしい選手はいない。

 ジャンプが70メートル級、90メートル級に分かれたのが、64年のインスブルック(オーストリア)大会。それ以来、両種目を制した選手は1人もいなかった。

 カルガリー五輪当時、25歳。既に世界を制し、選手として脂の乗り切った年齢だった。「2冠を可能にするのはニッカネンしかいない」と言われ、 そのプレッシャーの中で2冠どころか、団体戦の優勝にも貢献し、驚異の「3冠」を達成。技術に加え、並外れた精神力の強さがうかがえる。

 世界最高を誇る踏み切り技術は、W杯でも無敵を誇った。同時に、天才にありがちな奇行・奇癖も目立った。 酒を飲んでナショナルチームのメンバーといざこざを起こしては代表メンバーを外され、「このジャンプ台は飛びすぎて危険」と判断すれば、 1本目を飛んだだけで、競技を途中でキャンセルして帰ってしまう。スキーを持たずにレースに現れ、他人のスキーで飛ぶ−−。

 すべて天才ゆえのエピソードとして語られるが、数々の偉業の前ではスキャンダルも意味をなさなくなってしまうのも事実だ。 間違いなく、今世紀最大の天才ジャンパーとして、長く記憶されるはずである。


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