アルト・シェンク(オランダ)札幌:スピードスケート男子1500、5000、10000メートル金 |
札幌での“怪物”と言えばシェンク。グルノーブル・1500メートル銀、1970、71年の世界選手権総合優勝と着実にキャリアを積み、
満を持して臨んだ札幌では、才能や努力だけでなく、「運」さえも3冠獲得を後押しした。 当時のスピードスケートは屋外リンクで、風、気温、降雪などの気象条件がレースを大きく左右した。2月の札幌は朝よりも午後の方が荒天になることが多く、 早いスタートの方が絶対有利とされていた。シェンクは既に5000、1500を制し、3冠をかけて10000メートルに挑んだが、この時の滑走順は最終組。 札幌の“常識”から考えれば、圧倒的な不利は免れないところだ。 ところがこの日だけは、天候までがシェンクに味方した。レース開始直後よりも、シェンクがスタートした午後1時前後の方が天候が落ち着いていたのだ。 風も弱まり、まさに絶好のコンディション。シェンクにとっては願ってもないチャンスだった。3つ目の金メダルを手にした途端に雪が舞ってきたというのも、 シェンクの幸運を象徴するようなエピソードだった。 1メートル90センチ、90キロという恵まれた体格を生かした、爆発的なスピード。時計で計ったようにラップを刻む、精密機械のようなスケーティング。 それに好コンディションが加われば、負ける要素は何もない。あるいはシェンクは、お天気まで変えてしまう、本物の「怪物」だったのだろうか。 その“怪物”が、3冠達成後の記者会見で、ふと涙を流した時だけ「人間」に戻ったのが、印象的だった。 |