PowerPC 750: 低コストチップの予定が高速性能発揮 バックサイド・キャッシュでMach 5を超える
[Friday, December 19, 1997 松浦 晋=日経MAC]
12月3日,Appleは「G3(ジースリー)」と称するPower Macの新シリーズの国内発売をアナウンスした。Appleが発表で強調したのは,第3世代のPowerPCであるG3チップの採用であった。
PowerPC G3って何? 製造技術とアーキテクチャーの混乱
新機種の名称は「Power Macintosh G3」。この名称には,新世代を印象づけたいAppleのイメージ戦略を感じる。採用したG3チップ自体の正式名称は「PowerPC 750」という(開発時のコードネームは「Arthur(アーサー)」)。ところがあろうことか,AppleはカタログなどでPowerPC 750を勝手に「PowerPC G3」と名付ける始末。
PowerPCを開発・製造している米IBM社と米Motorola社では,第3世代の半導体製造ラインをG3と総称している。半導体チップの電子回路の配線幅が0.25マイクロメートルである製造ラインと,そこで使わる製造手法の総称がG3なのだ。G3の後には,さらに細い0.18マイクロメートル幅配線を実現する「G4」が控えている。
実はG3世代のPowerPCプロセッサーは2種類が開発されている。604eを第3世代に移行した「Mach 5(マーク5)」と,603eの後継であるArthur,すなわちPowerPC 750だ。
Mach 5は単に第3世代の製造手法を用いた604eで,アーキテクチャーは604eと全く同じ。名称も604eのままだ。従来0.35マイクロメートルだった配線幅を0.25マイクロメートルまで細くした604eと考えればよい。MPUの世界では線幅が狭いほどクロック周波数の向上が可能で,同時に消費電力も少なくなる。さらにチップ・サイズも小型化するので低コストで製造できる。
603eより604eが高性能なのは周知の事実。それだけの理由ではなかろうが,当初AppleはこのMach 5を中上級モデルの主力に使うつもりだったようだ。実際,Power Mac 9600/300と9600/350はMach 5(604e)を搭載している。Arthurは,むしろその低コストが注目され,互換機メーカーが低価格化の切り札として期待していた節がある。
単なるG3版603eを超えた750 750だけで可能なバックサイド方式
ところがここで逆転現象が起きる。Mach 5よりもArthurすなわちPowerPC 750の方が実際には速かったのだ。
これにはわけがあった。まんま604eそのもののMach 5と違って750は,新技術を投入してアーキテクチャーそのものを改良していたからだ。
その象徴がバックサイド方式2次キャッシュだ。通常のPower Macでは,2次キャッシュ・メモリーを主メモリーと同じ情報の通路(システム・バス)に置くルックアサイド方式を用いている。9600/350などのMach 5モデルでは,これを改良したインライン方式で2次キャッシュを実装して速度向上を図った。だがG3マックのバックサイド方式はさらに上を行く。システム・バスとは全く別の専用バス(情報の通路)で,MPUと2次キャッシュを直結しているのだ。これによりシステム・バスとは無関係に2次キャッシュの動作速度を向上できる。バックサイド方式はPowerPC 750の新型アーキテクチャーに依存するため,604eでは(Mach 5も含め)実現できない。
同クロックなら750が604eをしのぐ 瓢箪から駒の低電力,低コスト,高性能
このほかにも細かい改良を加えられた750は,結果として266MHzのクロックで300MHzのMach 5と肩を並べる性能を発揮する。しかも603eゆずりの低消費電力と低コストという特徴はそのまま残っている。「少ないパワーで高速処理」と,言うことなしのMPUが瓢箪から駒で誕生したのだ。これで高性能のマック互換機が97年秋から続々登場するはずだったのだが…。
その後の経緯は本誌既報の通り。Appleの方針転換で互換機メーカーのG3マシンはついに日の目を見なかった。一方,PowerPC 750はAppleの主力CPUとなり97年冬,ミドルレンジ機に搭載されて流通し始めた。
●写真
PowerBook G3に搭載されたPowerPC 750
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