1.1GHz PowerPC: PowerPCの未来を占うISSCCでの発表 1.1GHz動作の試作品と,銅配線の750が登場
[Thursday, March 5, 1998]
最先端の半導体開発者が世界中から集まり,1年間の研究成果を競う学会「ISSCC(International Solid State Circuit Conference)」が,2月5〜7日に米国のSan Francisco市で開かれた。マック・ユーザーの注目は何と言っても,PowerPCの今後を占う米IBM社の2件の発表だろう。1つは1.1GHz(1100MHz)という超高速で動作するPowerPCチップ,もう一つは内部の配線に従来のアルミニウムの代わりに銅を使った「PowerPC 750」である。
“世界最高速”の1.1GHz PowerPC
ISSCCで発表されたマイクロプロセッサーでは,1997年に米Digital Equipment社(DEC)が披露した600MHz動作の「Alpha」がこれまで最速だった。今回IBM社が発表した1.1GHz PowerPCの動作クロックはこの2倍で,文字通り“世界最高速”と言える。PowerPCにかけるIBM技術開発陣の意気込みがうかがえる発表だ。
もっとも,このチップは技術的に見れば「試作品」に過ぎず,そのままPower Macに搭載される可能性は低い。現在製品化されているPowerPCが実行できる命令のうち,限られたものしか対応していないため,現在のPowerPC用ソフトウエアをそのまま実行するには難がある。同時に実行できる命令が1個という点からも,製品化が遠いことがうかがえる。高性能のRISC型マイクロプロセッサーでは3個以上の命令を同時実行できるのが当たり前だからだ。
命令の種類や同時に実行できる命令数を減らせば,チップを構成する回路をぐんと単純化でき,その分,高速動作が容易になる。実際,今回のチップを構成するトランジスタ数は100万個と少なく,この数は68040を下回るほどだ。ちなみに米Intel社のPentium IIプロセッサーのトランジスタ数は750万個,PowerPC 750は650万個である。
将来のPowerPCの高速化に備えて,高い周波数で動作するマイクロプロセッサーを開発/製造するノウハウを得るのが,今回のチップを開発した最大の目的と言えそうだ。
銅配線の500MHz版750は登場間近
銅の配線を使ったPowerPC 750の動作周波数は500MHzと,現在製品に比べて約2倍である。期待できるのはこれが試作品ではなく,PowerPC 750の機能をすべて備えている点だ。後は量産化の問題だけなので,500MHz動作のPowerPC 750を搭載したPower Macがユーザーの手元に届くのもそう遠くはなさそうだ。
このPowerPC 750の最小加工寸法(配線幅)は0.20マイクロメートルと,現行製品の0.25マイクロメートルに比べてより細い。一般にトランジスタ回路は配線幅が細いほど高速にオン/オフを切り替えられるため,より高いクロック周波数で動作可能となる。また付随的にチップ面積が小さくなり,今回のPowerPC 750は40平方ミリメートルと,従来の約3分の2に縮小された。チップ面積は製造コストに影響するから,高速性と経済性を両立できるチップと言えるだろう。
細配線による高抵抗を補う切り札「銅」
ところで,なぜIBM社は銅の配線を採用したのだろうか。理由はこれまでのアルミニウム配線では,PowerPCの動作周波数を上げ続けるのが難しくなってきたことにある。マイクロプロセッサーの性能は,より細い配線を実現する製造技術とともに進歩してきた。ところが配線幅が細くなると,配線の抵抗という弊害が生じる。電子の通り道を狭くするわけだから,信号の伝わり方が遅くなるのだ。せっかく高速動作するトランジスタを作っても,トランジスタ間の信号伝達が遅ければ,意味がなくなってしまう。そこで,IBM社はアルミニウムよりも電気抵抗の小さい銅に着目したのだ。銅の配線は,PowerPCの動作周波数を今後も高め続けるための切り札といえる。
(枝 洋樹=日経エレクトロニクス)
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