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Appleの新しいキャンペーン 「Think different」が米国で始まる [Friday, November 7, 1997 シリコンバレー・オフィス発、山田 剛良=日経MAC] 米Apple Computer社は97年9月28日から,新しい広告キャンペーン「Think different」を開始した(http://www.apple.com/thinkdifferent/)。同日夜,テレビ初登場の映画「トイ・ストーリー(Toy Story)」放映時に流した60秒のテレビCM(http://www.apple.com/thinkdifferent/ad1.html。写真1)を第1弾として,本社ビルの懸垂幕(写真2),新聞や雑誌広告,ニューヨーク,サンフランシスコ,ボストンといった主要6都市では屋外看板や壁面のポスター,全体を広告で覆ったバスまで登場する大規模なキャンペーンを繰り広げている(http://product.info.apple.com/pr/photos/ads/adphotos.html)。 AppleはテレビCMの放映を少なくとも97年内いっぱいは続ける。98年以降も同じ方針でキャンペーンを続ける意向だ。
「クレージーな人たち」を紹介する 「Think different」キャンペーンの中核は印象的なテレビCMだ。静かなピアノ曲をバックに相対性理論のアルバート・アインシュタイン(Albert Einstein)がほほ笑む映像から始まるモノクロの60秒CMは,あらゆる意味で世界に影響を与えた人々の映像を次々と映し出す。 彼らの映像をバックに静かな語り口のナレーションが入る。「ここで紹介するのはみんなクレージー(狂気,熱狂の持ち主)だ。変人,反逆児,トラブル・メーカー,わがまま,常人とは違う視点を持った人たち.....」。ナレーションは,社会常識に反逆し,一見,クレージーに見える彼らこそが,人類を前進させた天才だと続ける。「なぜなら,世界を変えるなんて(バカげたことを)考えるほどクレージーでないと,世界は変えられないから」と。最後にAppleのロゴと「Think different」の文字が現れ,消える。 CM全体を通して「Macintosh」という言葉は一度も登場しない。Appleの名前もなく,最後にロゴが出るだけだ。新聞広告はCM中のナレーションがそのまま書かれているだけ。屋外広告や雑誌に至っては「クレージーな人」の大きな写真に小さくリンゴマークと「Think different」およびURL「www.apple.com」が書かれているのみ。なんの説明もない極端にシンプルな作りだ。 これら一連の広告を制作したのはTBWA Chiat/Day社(http://www.tbwachiatday.com/)。かの有名なマックのデビューCM「1984」を作ったことで知られる。永らくAppleの仕事から離れていたが,Steve Jobs氏がAppleの役員に就任してすぐの8月,再びAppleの広告制作会社として指名された。復帰後,最初に手がけたのが今回の広告キャンペーンである。
既存のユーザーに強くフォーカス Appleが米国で流しているCMはセンスの良い面白いものが多いが,今回の「Think different」の出来は格別だ。特にCMの最後の「世界を変えるなんて思えるほどクレージーでないと,世界は変えられない」というメッセージは,マック登場時のキャッチ・コピー「The Computer for the rest of us」との関係を感じさせ,古くからのマック・ユーザーほど,ぐっと来るのではないか? そうなのだ。今回のキャンペーンは実に内向きの——既存のユーザーに向けたキャンペーンなのである。 米Apple Computer社広報のRhona Hamilton氏によると今回のキャンペーンの対象は「6カ月以内にコンピューターを買う気があるユーザー。現在マック・ユーザーでアップグレードを考えている人か,Wintelかマックのどちらを買おうか迷ってる人たち」であるという。つまり,Wintelパソコン・ユーザーをマック・ユーザーに「寝返らせる」意図はない。利益体質への復帰が急務である今のAppleにとって,より重要なのは新規ユーザーではなく,確実にマックを買ってくれる既存ユーザーの方なのである。 実際,Appleやマックを知らない消費者がテレビCMや広告を見ても,何がなんだか分からないだろう。奇妙なCMという印象を残すかもしれないが....。だが,マック・ユーザーがこれを見れば勇気づけられるはず。「マック・ユーザーこそ世界を変えられる」とCMが語ることで,既存ユーザーのマック離れを最小限にくい止め,買い替え需要を喚起する。Appleの意図はそこにある。 実際,今回のキャンペーンを見かける機会は米国にいてもそうは多くない。テレビCMのスポット数は少ないし,屋外看板にしても見かけることはマレ。広告バスに至っては,1カ月で2度ほど見ただけだ。しかし,マックのユーザーが「おっ,Think differentだ」と思ってくれるなら,たぶんそれで十分なのである。 マックのユーザーに「Macintosh」という商品の説明は無意味だ。必要なのはもはや少数派である彼らに多数派のWintelパソコン・ユーザーとは「違う価値がある」「違う考え方でいい」という誇りを持ってもらうこと。それがAppleの言う「Think different」の意味なのである。 Jobs氏は,最近の講演(http://www.nikkeimac.com/hotnews/9710/jobsonmmedia.html)で締めくくりに必ずこのCMを聴衆に見せ「これが私たちです」と説明している。彼が述べているように,今回のキャンペーンは,拡大路線をあきらめ,現状維持を選んだAppleの「現在」を象徴しているのである。
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