97年1月のMACWORLD Expo/San Franciscoの基調講演に招かれた米Microsoft社のプラットフォームおよびアプリケーション担当Group Vice PresidentのPaul Maritz氏は壇上で,Microsoftがマック製品専任の開発チームを組織したこと,その規模が100名を超えることを発表した。今から思えば,これはMicrosoftが再びマック製品に本格的に取り組み始めたことを示していた。97年8月の衝撃的な提携への道筋はすでにこの時,暗示されていたのかもしれない。
実は,Microsoftのマック製品開発チームの一部はAppleのおひざ元であるシリコンバレー地区にある。マック版インターネット関連製品の開発チームを率いるDon Bradford氏に,California州San Jose市のオフィスでインタビューした。
Personal Web Server for Macintosh
●Microsoftはなぜこの場所に開発センターを持っているんですか?
San Joseのオフィスが出来たのは95年9月だ。私はMSでインターネット製品を作るために小さなチームを組織した。その際,Bill GatesやBrad Silverberg(Senior Vice President Applications and Internet Client Group)と話して,ベイエリア(シリコンバレー近辺のこと)にオフィスを作ることにした。それがこのオフィスの始まりだ。当初はたった6人でスタートした。現在は80人を超えたし,98年1月にはフロアを増やしてさらに80人増やす計画だ。
ベイエリアにオフィスを持つメリットは2つある。1つはベイエリア独特の文化に直接触れられること。もう1つは経験を積んだマックのプログラマーは,この地域に一番たくさんいるということだ。彼らはこの地を動きたがらない。
Appleが長い間この場所にあるために,マックのユーザー文化はこの地で育まれている。我々の目標はマック環境で一番優れた——マック・ユーザーが使って心地よいソフトを作ることにある。マックのソフトは,やはりマックっぽく動かないといけない。そのためには,プログラマーがユーザーの好みや感覚を感じ取れる環境が必要になる。これは成功するクロス・プラットフォーム製品を作る重要なポイントなんだ。それからもちろん,ここに居た方がAppleとの協力関係が緊密になるというメリットもある。
●そうするとスタッフはほとんどベイエリアの人なんですか?
そうだ。80人のうちMS出身は2人いるが,Redmondから来たエンジニアは1人だけだ。もう1人はCupertinoのPower Pointの開発チームから移ってきた。
私自身もAldusでPersuationの開発をした後,Clarisに移ってClaris Worksに携わった人間だ。IE for MacのチーフエンジニアはClaris時代に一緒に働いた仲間だった。
ほかにはNatural InterigenceでRosterを作った人々,RadiusでRocketやRocket Share,VideoVisionを作った人,Aldusに居たスタッフ,Personal Web Server(これは開発チームごと製品を購入した)のResNova Softwareにいた人々,もちろん元Appleのエンジニアもいる。
みんなマックの世界でひとかどの仕事をしてきた人間だ。Apple外では最大の開発チームだし,他と比べても非常に優秀で強力なスタッフだと満足している。
●IE for Macはスクラッチから書いたそうですが....。
アプリの基本的な仕様はWindows版,マック版で共通に決める。クロスプラットフォームにするためには必要な作業だ。一部の機能はWindows版のコードがベースになる場合もある。だが実際は,コードの90%をマック用にスクラッチから(最初から専用に)書いた。
そうする理由は2つある。1つはMac OSの技術をフルに活用するにはその方が有利だからだ。IEは最初からQiuckTimeをサポートしていた。ほかにもText EncordingやMacintosh Drag and Drop,ColorSyncなどをきちんとサポートしている。その方がマックらしいソフトになる。
もう1つはパフォーマンス。マック・ユーザーはおおむね,メモリーのフット・プリント(占有領域)が小さくて軽くて速いソフトを好む。新型のPower Mac G3を手に入れたユーザーもいれば,68Kマックを使い続けるユーザーもいる。彼らが満足するパフォーマンスを出せるソフトを作るには,やはりスクラッチから書かければならない。
我々は製品を開発するにあたって,マック・ユーザーの要望を注意深く調査した。ユーザーが満足する良い製品を作ること,それがMac OSというプラットフォームを発展させる一番よい方法だと考えている。
●そのやり方はインターネット関連ソフトだけですか?
いや,Officeの開発チームも2年ほど前からマック版とWindows版を同時進行させる方式に開発方法を変えているんだ。Windows版と共通なのは仕様だけで,作業は元から別々だった。さらに1年ほど前の97年1月にBen Waldmanのチームを作って,マック版のチームを分離した。これはエンジニアに,マックのユーザーへもっとフォーカスさせるためだ。だから,マック版独自の機能や,Windows版でまだ採用していない機能も開発チームが必要と判断したらどんどん採用している。
さらにBenのチームでは,パフォーマンスとバグの問題を解決するために,専任のスタッフを割いた。98年1月に登場するOffice 98 for Macの完成度はかなり高いと期待してくれていい。
要するに我々は,クロス・プラットフォームとしての条件を守りながら,マック版はマック・ユーザーに,Win版はWinユーザーにきちんとフォーカスした製品を作るという方針に転換したんだ。もちろんファイル形式やActiveXのようなキーとなる機能は共通に使えるようにするが,むしろ対象のプラットフォームで最高の製品を作ることに優先したい。Windows版Office 98より,Mac OSのアップデート・スケジュールに合わせて新しいバージョンを出した方が有意義だと思うからだ。
●データベース・ソフトの「Access」マック版のプランはありますか。また,Outlook Expressではなく「Outlook 97」相当の製品の計画は?
Accessの計画はない。マック・ユーザーのほとんどは「FileMaker Pro」を使っていると思うからだ。現行のOutlook 97はWindowsのメッセージ・システムに強く依存したソフトなので,マック版は難しい。Outlook Expressを強力なインターネット・メーラーに育てる方が得策だと思う。
●Active Desktopはマックに載せるのですか?
良い質問だ。いずれにせよ,やるならAppleとの共同作業になるだろう。現在,協議中なんだ。技術的にはまったく問題なく可能なんだが....。開発を始めてから12カ月くらいで最終製品を出すのも難しくない。
IEやOutlook Exressは内部的にかなりコンポーネント化されている。両者は共通のコンポーネントを使っているし,多くの機能はFinderからだってアクセスできる。例えば,HTMLレンダリング・エンジンを使えば,ホームページをデスクトップに張り付けるのは簡単にできるんだよ。
(聞き手=山田 剛良,シリコンバレー・オフィス)