G3アップグレード・カードでも 設計によって性能は変わってきます
[Friday, January 16, 1998 平沢 真一=日経MAC]
Roger Kasten Jr.氏, 米Newer Technology社CTO(最高技術責任者=左)
Appleに先駆けてPowerPC 750(G3)CPUアップグレード・カードを発売するなど,今最も元気のいいサード・パーティーが米Newer Technologiy社だ。その最高技術責任者のRoger Kasten Jr.氏に,PowerPC 750カードの開発裏舞台や,今後の製品展開などについて,同社最高経営責任者James Wiebe氏(写真右)同席のもと,話を聞いた。
●G3チップはIBM社が提供するのでカード・メーカー各社とも同じです。それでもカード・メーカーごとに違いが出るのですか。
G3のチップPowerPC 750を供給しているのはIBM社とMotorola社の2社しかない。つまり,どこの拡張カード・メーカーもこの2社から買った同じチップを使って製品を作っている。しかし,チップが同じでも製品の性能までがどこも同じになるとは言えない。
まず,拡張カード・メーカーにとって大切なのは,IBM社とMotorola社が最新で最高性能のチップをいつ出荷するといった情報を的確につかんでいること。カード・メーカーはチップを受け取ってからカードを設計し,テストして設計を練り直し,製品を作らなければならない。時間がかかる。だからこそ,他社より少しでも早く新型チップを手に入れた企業が競争に勝てる。私たちはIBM社,Motorola社と常に連絡を取り合っており,特別に太いパイプを持っている。その点ではだれにも負けない自信がある。
G3カードを作るうえでの最大の難所は,CPUと2次キャッシュをつなぐバスの設計。バックサイド・キャッシュはCPUの動作周波数と同じ,あるいは半分と高速で動作させなければならない。バックサイド・バスの設計は非常にデリケートだから,少し製造が狂うだけでスペック通りの性能が出なくなる。基本設計が悪いと,製造工程で狂いが出やすい。この辺りに各社の優劣が出やすいよね。
●マックは機種によってマザーボードのシステム・バス速度(動作周波数)が違います。システム・バス速度によって,G3カードで高速化できる度合いも変わってくるのでしょうか。
確かにPowerMac 7100や8100など第1世代のPower Macのシステム・バスは33MHzと遅いです。しかし,(PowerPC 750アップグレードが可能な)最新マックでもせいぜい55MHz(設計上は50MHz)なんです。250MHz以上で動作するCPUに比べて格段に遅いという点では同じです。33MHzと55MHzで違うのはメモリー・コントローラーに指示を出すタイミングぐらいで,性能的にはそれほど変わらないと考えています。
特にG3カードの場合は,専用の高速バスでつないだ2次キャッシュを1MBも持っています。この2次キャッシュで処理している間はメイン・メモリーへのアクセスがないので,システム・バスとは無関係。つまり,古いマックも新しいマックも全く同じ性能を出せるわけです。メイン・メモリーやハード・ディスクへのアクセスが多くなると,システム・バス速度の影響がしだいに現れてきます。
6100や7100は,1MBのキャッシュを積んだG3カードで驚くほど高速になります。当社の調べでは,G3カードでアップグレードした6100が,「Power Mac G3/233」より1割近く速くなりました。よほどのプロでない限り,これでも十分に満足できると思いますよ。
●PowerBook用のG3カードについてはどうでしょう。
PowerBook用はまずPowerBook 2400向けの商品を出します。1400用の製品も98年春ごろには出す予定で開発を進めていますが,設計に非常に難儀しています。設計の難易度で言えば,たぶん当社始まって以来。
2400に比べて1400はカードを置けるスペースが少ないうえ,その中にバスだけでなく高速なメモリー・コントローラーほか複雑な機能を作り込まなければなりません。詳しいことはまだ言えませんが,当社が今までやったことないぐらいレイヤー(基板内部の回路積層数)を増やして対応することになります。
●Mach 5(0.25マイクロメートルの半導体プロセスを使ったPowerPC 604e)を使ったカードを出す予定はありますか。
今も将来も,Mach 5搭載の拡張カードを出す考えは全くありません。Mach 5ははっきり言って失敗です。理由は1つ。バックサイド・キャッシュを作り込めなかったからです。
IBM/Motorola社では,603eと604eの開発チームは最初から完全に分かれていました。603eチームの方は,チップの基本構造をなるべくシンプルにするよう努力してきたために,バックサイド・キャッシュを導入することができました。しかし,604eチームは機能を欲張り過ぎていたために,チップの構造が複雑になっていました。604eにバックサイド・キャッシュを導入するなんて無理な注文だったのです。
604eチームはその代わりにインライン・キャッシュを取り入れたのですが,2次キャッシュの動作速度がシステム・バスによって制限されてしまうのはやはり大きなネックでした。604eチームにいる知人から,Mach 5はバックサイド・キャッシュを導入しないと聞いた瞬間,私はMach 5が失敗に終わると自信を持って判断しました。実は,当社はMach 5が世に出るずっと前から,製品開発をPowerPC 750だけに絞っていたのです。
(聞き手=平沢 真一)
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