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「Webにベクトル・グラフィックスの
“標準”を提供したいのです」

[Monday, June 15, 1998 星野 純=日経MAC]

(5k) Tom Malloy氏,
米Adobe Systems社Vice President of Engineering Advanced Technology Group

米Adobe Systems社(http://www.adobe.com/)は98年4月,Web用ベクトル・グラフィックス記述言語の仕様「PGML(Precision Graphics Markup Language)」注)を,米IBM社,米Netscape Communications社,米Sun Microsystems社の3社と共同で,W3C(World Wide Web Consortium,http://www.w3c.org/)に提案した。このPGMLについて,同社先端技術グループ担当副社長のTom Malloy氏に話を聞いた。

●PGMLとは簡単に言って何なのでしょう?

一言で言うなら,「PostScript(PS)+PDF+XML(Extensible Markup Language)=PGML」ということでしょうか。Webコンテンツ・クリエイターに,複雑なグラフィックスでも精密に定義でき,インタラクティブな操作にも堪えられ,しかもテキストだけで表現できるWeb用ベクトル・グラフィックスの仕様を提供するものです。Adobeがこれまで培(つちか)ってきた2Dイメージング・モデルと,Webの特性を融合させます。

PGMLは,レイアウト,フォント,カラーを含む精密なグラフィックス表現が可能で,EPSやPDFといった従来のディジタル・パブリッシングで使われてきたデータとの親和性も高いものです。つまり,これまでクリエイターがPSやPDFで得ていたグラフィックスが,テキスト・ベースのWeb用データで記述可能になるのです。我々の思わく通り標準化され,対応ブラウザーが登場した暁(あきつき)には,プラグインやビューワー・ソフトすら不要です。高品質でありながら現在のGIFのように扱えて,容量が小さく転送も速いという理想的なデータとなります。

●すでに精密なグラフィックスの実現という意味ではPDFもWebで広く使われています。また,ベクトル・ベースのWeb用アニメーションには米Macromedia社の「Flash」もありますが?

我々が目指しているのは,XMLに準拠していること,テキスト・ベースであることなど,あくまでWebでの標準ということです。FlashもPDFもプラグインが必要な,独自のバイナリー・データです。Webコンテンツ・クリエイターの立場で考えたとき,最も大事なのは,作成したコンテンツを最大数の相手に届けたいのだ,ということです。そのためには“標準仕様”であることが必要です。

ただ,いずれにせよPDFとは機能的に多少違うものになるでしょう。例えば,PGMLは,ページ概念,ランダム・アクセス,セキュリティー,ハイエンド印刷といった機能は備えません。また,アニメーション機能については,まだほとんど決まっていません。

●PGMLではテキストも扱えるようですが,2バイト言語についてはどうなるんでしょう?PDFと同様に多国語対応になるんでしょうか?

実際にはまだ最初のドラフトですから,細かい点はこれから決めていくことになるでしょう。またテキストの扱いについては,W3CのCSS(Cascading Style Sheet)作業部会でも検討していることなので,PGMLだけの問題ではありません。しかし,CSS作業部会にはAdobeも参加していますし,我々はこの問題を大いに認識していますから,検討の材料になることは確かです。

●ほとんどの具体的な仕様はこれから決める,ということですね?

その通りです。ごく近いうちにW3Cで作業部会が編成され,そこで具体的な仕様の検討に入ります。

現在W3Cには,我々のほかにもXMLベースのベクトル・グラフィックスの仕様を提案しているグループがいます。例えば,Autodesk社,Hewlett-Packard社,Macromedia社,Microsoft社,Visio社が共同で「VML(Vector Markup Language)」という仕様を提案しています。VMLが目指しているのは,「Microsoft Office」のグラフィックスのようなものをWeb上で再現することです。重複する部分はありますが,精密さを優先事項としている我々とは基本的な対象,アプローチが違います。つまり,相互に補完するような関係だと考えています。

仕様の策定作業では,こうした他のベンダーとも協力していきたいと思っています。例えば,PGMLのアニメーションの仕様については余り具体的になっていないと言いましたが,こういう部分でMacromedia社の協力が得られれば,よりいいものになるでしょう。

●見通しとしては,いつ頃一般ユーザーがPGMLの恩恵を受けられそうですか?

仕様が標準化される時期については,作業部会の参加メンバーによってこれから決まってくることなので,はっきりとは言えません。また,その後はWebブラウザーのベンダーに対応製品をリリースしてもらわなくてはなりません。順番としては,標準化,対応ブラウザーの登場,そしてPGML作成ツールのリリース,ということになるかと思いますが,我々としては今後1年ほどでPGMLに対応したWebブラウザーが登場してくることを目標に,標準化に向けて努力します。

また,W3Cでの標準化作業とソフトの開発は並行して進めますから,対応ブラウザーが登場する前に,PGMLビューワーをβ版段階から配付したいと思っています。

●AdobeにはWeb用の画像編集ツール「ImageReady」という新製品がすでにありますが,これがPGML作成ツールに進化するのでしょうか?

これも確かなことはまだ言えませんが,AdobeのアプリケーションではPGMLを積極的にサポートしていく予定です。ImageReadyに限らず,「Illustrator」や「Acrobat」からダイレクトに書き出し/読み込みできるようになるでしょうし,全く新しいツールが出てくる可能性もあります。

(聞き手:星野 純)


注)PGMLは,AdobeがPostScript(以下PS)やPDFなど自社製品で利用してきた2Dグラフィックス・イメージング・モデル(かつて「Bravo」と呼ばれていた)を,構造化されたデータを記述するための言語仕様「XML(Extensible Markup Language)」の記述方法に準拠させたもの。

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