原田アップル社長,古川会長,西氏らと コンピュータの未来を語る
[Monday, September 14, 1998 佐藤 千秋=日経MAC]
第10回日本コンピュータサイエンス学会学術集会が,1998年9月13日,横浜市のパシフィコ横浜会議センター小ホールで行われた。今年は「21世紀に向けてAre youready?/どう折り合う科学社会とマルチメディア」と題してさまざまな分科会を開いた。
中でも午後1時から開かれた「知識の未来とコンピュータの未来」をテーマにしたセッションには,アップルコンピュータ社長原田永幸氏,マイクロソフト会長古川享氏,アスキー エデュケーションカンパニープレジデント西和彦氏が出席,人気を集めた。
日本コンピュータサイエンス学会は1994年に設立された学会で,医学,歯学,薬学,看護学,理学,工学,農学などに関する研究者間の研究活動を支援するコンピューターの活用事例を交換する場を提供することを目的としたもの。
セッションはパネラーがそれぞれ,特別講演を行った後,パネルディスカッションが,終了予定の午後3時を超えて,盛況のうちに行われた。
前半の特別講演では,三者とも抽象論を展開するにとどまり,会場はやや活気に乏しいスタートとなった。後半のパネルディスカッションも同様に進むかに見えたが,西氏が進行の主導権を手にしたときから,徐々に聴衆が期待する話題に転換してきた。
情報流通のインフラストラクチャーが整備されたために,問題化し始めた氾濫する情報の質の見極めについては,原田氏は「ネットワークにつながるパソコンのOSはエージェントに進化する」として,OSがユーザーの求める情報を選択するなどしてアシストするようになることを予言。ナレッジ・ナビゲーターを彷彿とさせる言葉に会場は聞き入った。
アップルはユーザーの要望を入れながら未来を提案
議論は製品作りの姿勢について発展していった。「Office 98 Macintosh Editionは,マック・ユーザーの声を集めて,そのニーズを反映した製品に仕上げた」と,古川会長が発言。すでにマイクロソフトは,ユーザーからの要望をフィードバックして開発するシステムが整っていることをアピールした。これに対して,「私が欲しいものを開発したと,エンジニアが発言する,まず開発ありきの(ソニーのような)メーカーは時代遅れなのか」と,西氏からつっこみが入った。
原田社長は,「声を拾うことは大切だが,ユーザーの言いなりはだめ」と,ソニー同様の提案型メーカーとしてのアップルコンピュータの立場を確認した。
終了間際,原田社長は,「アップルコンピュータとマイクロソフト,あるいはMacOS対Windowsの2元論で語られることが,いまだに多いが,それは間違い」と,念を押し,ユーザーを惑わすとともに,プラットフォーム戦争以外の切り口を持たない短絡的なマスコミの報道に釘を差した。「アップルコンピュータとマイクロソフトは,コンピュータ社会の未来を切り開くためにテクノロジー戦争を展開することはあっても,商品化戦争やシェア争いなどに終始しているわけではない」と続け,ユーザーに理解を求めた。
iMacは,今でもすぐ買える
パネルディスカッション終了後,原田社長は日経MACのインタビューに応じてくれた。
●iMacに対して,市場は品薄感を感じているようだが
「そんなことまったくない。販売店への直送システムもうまく稼働している。iMacを購入したい方は,どんなにお待たせしても,1週間で入手できるはずだ。一部のマスコミが,そういうムードを煽っているだけだ」
●納品まで2週間以上と説明する販売店もあるようだが。
「我々アップルコンピュータは,1週間で納品できるはずだと販売店にも説明している。メーカー在庫が無いと報道するマスコミがあるから,販売店もユーザーに対して期間を多く見積もり過ぎた説明をしてしまう可能性はある」
●実際に潤沢に製品が入荷すれば,販売店側も正しく説明できるのではないか。
「アップルコンピュータからは,実際にユーザーの手に渡った数しか補充されない。もちろん,この仕組みは正しく機能している。だが,品薄報道に踊らされたユーザーが不安になって複数の販売店に予約してしまうことになる。そのため,本当に引き取ってもらえるかどうか分からない予約分を店頭在庫として抱えている販売店が出てきている。本来ならば,新規の注文客に回すべき在庫が店頭から動かないため,待たされるユーザーも出てくるのではないか」
●iMacの供給体制にはまったく問題はないのか
「ない。今は,システムが逆に回っているだけ。みんな落ち着けば,きちんとした方向に回り始める。iMacを欲しい人にはスムーズに行き渡るはずだ」
●iMac販売方式全般にも問題はないか
「製品は2日で供給できるが,情報伝達は2日以上かかるようだ(笑い)。アップルコンピュータからのメッセージが販売店を通してお客様に届くまで結構時間がかかる。これを短縮できるように努力しているし,正確に伝わるようになれば,先の逆回転も正常に戻るはずだ」。
●USB対応のプリンター出荷でもう一度iMacの出荷量が増大すると予想している販売店があるが。
「供給体制には問題はない。ただし,我々にはブームは必要ない。iMacはコンスタントに売れていく商品だし,そうしていくつもりだ」
原田社長は,このほかにも流通チャネルの拡大などにもすでに乗り出していると言う。
iMacから始めた「新流通方式」に対しても,成功の手ごたえを感じているようだ。
Office 98 Macintosh Editionは順調
マイクロソフト古川享会長によると,新Officeのマック版のすべりだしも,まずまずのようだ。
●Officeマック版の早朝販売は空振りの観もあったが。
「正直なところ,我々の営業スタッフもしゃれにならないと,早朝から続けて販売店をまわった。やっぱりと言うのも何だが,午後から夕方以降は,Officeを求める客が増えて,商品の動きはよくなった。時刻よりおおきな時間軸で見れば予定通りの推移なので,安心しているところだ」。
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