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1998年ディジタル・パブリッシング・
グランプリ総評

[Friday, September 18, 1998]

ディジタル・パブリッシング・グランプリは,ディジタル・パブリッシングによって作成された作品を広く募集し,優秀作を表彰,ディジタル・デザインのあるべき未来を明らかにすることを目的にスタートした。今年で,はや3回目を迎える。ディジタル技術は,回を重ねる間にも,休みなく進歩し続けており,応募作や応募者の属性には,その年の技術傾向が如実に現れる。そこで,まず過去3回の応募動向を振り返り,現在のディジタル・パブリッシングの置かれている環境から受賞作を見ていこう。


数字から見る
1998年ディジタル・パブリッシング・グランプリの傾向
応募数は大幅に増加。特にパーソナル・パブリッシング部門の増加が目立つ。作品の質も高い。

過去3年間で,応募者総数は,1996年341人,97年366人,98年458人と着実に増加し続けている。97年は対前年比107.3%だったが,98年は対前年比125.1%とより大きな伸びを見せた(図1)。特に目立つのは,個人参加者の増加(図2)だ。パーソナル・パブリッシング部門(表1)への応募は全体の63%(図3)。いわゆる“プロ”の参加が多いコマーシャル部門,コーポレート部門をしのぐ力量を持った作品も多く,一般の個人がプロ顔負けにパソコンを使いこなし,表現したり,おそらくは自らの仕事の場でも活用していることがうかがえた。

●図1 応募者の変化

●図2 1998年度部門別集計の割合

●図3 部門別応募数の推移

趣味の範ちゅうの作品づくりでは,予算や機材,技術など制約もより多い。応募作品からは,そんな限界を前に,知恵を絞り1つひとつ問題を解決しながら,求めるカタチに近付けてきたエネルギーが感じられ,それが審査員を圧倒し,感動を与えた。

例えば,アップル賞を受賞した「ザニーチョージャー」は,「鶴の恩返し」のビルマ語版。ミャンマーで教師をしていた妻の,母国の学生や孤児達に金銭以外の部分で援助をしたい,という熱い思いがきっかけになって制作された。複雑な形態のビルマ文字を苦労しながら並べていったという。  

個人商店や中小企業の社員が1から組み立て,運営しているイントラネット・システムも目立った。高価なシステム管理会社に頼らず,「ファイルメーカーPro」や「Tango」といったソフトを使い,自前でデータベースのWebパブリッシングを行っている。部門大賞を受賞した東急建設大阪支店の「イントラネットを利用したCAD図面の公開手法と運用手法」は,個人の創意や知恵を共有財産として仕事に生かすことに成功した良い例だ。


デザイン分野ではまだまだ圧倒的な力を持つマックと
Windows DTPなどWindowsによるデザインの将来
デザイン分野でマックはまだまだ揺るぎない地位を占める。一方でWindowsマシンの台頭も見逃せない。

グランプリの応募者が使用している機種は,マックが77%,Windowsマシンが20%である(図4)。市場ではマックのシェアが大幅に下落しているものの,デザイン,DTPのツールとして,マックが,依然,支持を得ていることがうかがえる。

●図4 1998年度使用機器の割合

もちろん,プロのデザイナーやクリエーターの中には,グラフィックス処理用のUNIXワークステーションやWindows NT Workstationを使い始めている人も多い。元々マック版しかなかった「Adobe Illustrator」,「Adobe Photoshop」といった主要グラフィクス・ソフトのWindows版が普及するに伴い,安価なWindowsマシンにこうしたソフトを入れ,年賀状などを作る一般ユーザーも目立って増えた。

グランプリの参加者でWindows搭載機を使用する人の比率も徐々に増加している。96年,97年は10%台だったWindowsマシンユーザーが今では20%台になっている。

最近,よく耳にする「Windows DTP」についてはどうだろう? 代表的なページ・レイアウト・ソフトの「Adobe PageMaker」や「QuarkXPress」自体はすでにWindowsにも対応しているが,プロが使うには,まだフォントの問題や印刷会社の対応など,印刷物そのものを売り物にする場合は残された問題が多いと言わざるを得ない。しかし,ビジネス文書をDTPするレベルでは十分,現実の段階に来ている。例えば,入賞を受賞したアークアカデミーの「風のつばさ」がその好例だ。まったくの素人が,Photoshopや「Microsoft Word 97」を使って,印刷業者と手探りで試行錯誤しながら,1冊の本を作り上げ,受賞した。しかも,審査員は,この本が,Windowsマシンをプラットフォームに作られたものと知っていて選んだわけではない。


結局のところ,技術の誇示だけでは評価はされず,
何を表現するかが問われる。
ディジタル技術は日進月歩。常に先を見据えつつも,技術に翻弄されない作品作りを期待したい。

今回,審査員の誰もが痛感したのは,ようやくディジタル技術が,普通の“道具”となり,表現したい内容そのものや,デザイン力,センスといったごく基本的な部分が問われるようになったということだ。

昨年の当グランプリでは,「Macromedia Flash」を的確かつセンスよく使いこなしたWebサイト「image dive studio」が,一昨年は「QuickTime VR」を利用した仮想図書館「武蔵野美術大学美術資料図書館ホームページ」が,グランプリを獲得した。昨年の影響からか,今年は,Flashを使った同じような作品が数多く寄せられたが,受賞はしなかった。

今年の際立った特徴として,特定の技術に依存した形態の作品がほとんど選ばれなかった,ということがある。VRMLのような最新技術を駆使した作品もいくつかあったが選からは漏れている。審査員の河北秀也氏は,これを「T2からタイタニックへ」と表現する。映画「ターミネーター2」では,中で使われたSFX技術に誰もが驚かされ,手に汗を握り,未知の世界に映像に素直に感激した。けれど,映画「タイタニック」では,更に進んだディジタル技術が使われていながら,それがどこにどのように使われているかは誰も気にせず,ただ物語に感動した。技術は,終始,物語をよりリアルに見せる方法論としてだけ存在した。

グランプリを獲得した「野口さん家の旅日記」は,まさにそうした作品だ。制作にあたって込めた「遠く離れて暮らす娘を心配する両親を少しでも安心させたい」という作者の思いだけが表出しており,審査員一同,そこに,ただ心を打たれた。

ディジタル技術が単に“道具”になり得た,ということは,即ち,技術に対するストレスがなくなったということだ。例えば印刷技術の目覚ましい向上。低価格なインクジェット・プリンターでも,適切な画像処理さえ行えば,誰もが写真クオリティーの出力を得られる。工夫すれば,特大ポスターを作ることも布に印刷することもできる。仮想空間の散歩を実現するウォークスルー・ムービーしかり,誰にでも配布できる書類を作る「Adobe Acrobat」しかりだ。まず,表現したいものがあって,それに沿って技術を選ぶ。作りたいものがあったときに,テクノロジーの制限で望む表現を実現できないということは,ほとんどなくなった。

その意味では,技術を追いかけて背伸びする必要もない。C1部門の大賞を受賞した「BIRD・BOURBON」は,「入門機材でもここまでできるのか」と審査員を驚かせた作品だ。初心者向けマック「Performa」と簡単なドロー・ソフト,家庭用のカラー・プリンターだけで,温かな手触り感を持つ見事な作品が生まれた。

これは紙で作るもの,これはディスプレイ上で見るもの,といった固定観念のラインを,小気味よく飛び越えた作品も目立った。カードや名刺をフロッピーに入れて友達に贈った人もいれば,逆に,ホームページをプリント・アウトして,子供向けの美しいおもちゃを作れるようにした人もいる。

7歳の菅原光祥さんは,マックとWindowsの両方を使って「花時間のたび」という絵本を作り,2賞ダブル受賞した。下書きをスキャナーで取り込んで画面上で彩色したり,写真を取り込んで貼り合わせたり,先入観に捕らわれない自由な表現が心を打つ。ディジタルもアナログもない,Windowsもマックもない。彼女にとっては,何もかもが文房具の1つにすぎない。子供から大人が教えられるような素敵な作品だ。

訴えたいテーマや表現したい内なる情熱があれば,技術を凌駕(りょうが)する。技術はおのずとついてくる。そんな基本に誰もが立ち返らされた第3回ディジタル・パブリッシング・グランプリだった。

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This page was last updated on Mon, Sep 21, 1998 at 17:30:31.
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