話上手な人間というものは、えてして口調 に緩急をつけて聴き手を魅了するものだ。  アナウンサーともなれば、そのあたりは心 得ていて当然というものだろう。  しかし、彼女はむしろその逆だ。  わざと機械的に話をしている節がある。  一体、どうしてなのだろうか。  理由はすぐに明らかになった。 「あいや、そんみてきないわぁ!」 先勝した俺の前で、いきなり千鶴はそんな 理解に苦しむ悲鳴を上げたのである。 「……あ」  口を開けて呆然とする俺を見て、千鶴は口 に手を当てて愛想笑いでごまかそうとした。 しかし、口にしてしまった今の言葉を引っ 込めることまではできやしない。 「あのさぁ……キミの生まれって、どこ?」  すまなさそうに俺がそう尋ねると、千鶴は ビクッと身体をこわばらせた。  やがて、観念したのか。 「青森の、津軽なんです」  大きなため息をついて白状した。 「ああ、やっぱり」 独特の濁るイントネーションでわかった。 彼女は根っからの津軽人なのだ。 「みっともないでしょう。キャスターのくせ にナマってるなんて」 しょんぼりした声で千鶴は言った。  彼女は感情をこめてしゃべると、ついつい 地元ナマリが出てしまう癖があるのだという。  それを意識すると、さっきの人形みたいな 抑揚のないしゃべり方しかできなくなるのだ。 方言コンプレックス――それが原因で彼女 はしゃべることに恐怖を感じるのだと言った。  憧れのアナウンサーになったのはいいが、 そのせいで思うように仕事ができない。 レポートも実況中継も、感情表現が大切な 仕事はことごとくNG。  安心してできることといえば、天気予報を 事務的に読みあげるだけだという。 「私、どうしたらいいんでしょうか?」  淡々とした千鶴の声色からは、抑えつけて も抑えきれないもどかしさが、初めて感情と いう形で俺の元へと伝わってきていた。