「ようこそいらっしゃいました」  18階への扉を開けた俺を出迎えたのは、淡 々としたそんな声だった。 声の主はじっと俺を見つめていた。  目にも鮮やかなカーマインのスーツ。  さらさらのロングヘア。黒目がちな瞳には 柔らかくカールした睫毛が並んでいる。  清楚で大人びた雰囲気の女性だった。 「次のあなたのお相手をさせていただきます、 玉谷千鶴(たまや・ちづる)と申します」 そう自己紹介して、千鶴は丁寧に頭を下げ た。俯角90度、完全無欠のお辞儀だった。  そんな彼女の徹底的な礼儀正しさは、室内 を見渡せば自然と納得できた。  壁一面のモニターに表示された天気図と、 それを中心に配置されたいくつものカメラ。  どうも彼女は天気予報のお姉さんらしい。  たぶん、女性アナウンサーというやつだ。  前に戦った少女が"百合十字会・報道局"を 名乗っていたことがあった。  彼女もその一員なのだろう。  だが、あまりにやかましすぎた以前の相手 とは正反対に、千鶴は落ち着きをもった知的 な女性だと思えた。  その端正な容貌は、文句なしに局の看板と して通用するものだろう。 しかしどういうわけか、俺は彼女に対して 素直に魅力を感じられずにいた。 「さあ、勝負を始めましょう」  千鶴にうながされて雀卓につきながら、俺 は自分が感じている違和感の正体を知った。 (しゃべり方に抑揚がないんだ……) 感情のこもってない淡々とした口調。  容姿が整っていることも手伝って、そんな 彼女はまるで精巧な人形のように見える。  それが俺の感じた違和感の正体だった。