この一家はどうやら祭り好きらしい・・・というお話。
(↑「コンプ祭り」でも「ひぐらしのなく頃に 祭」でもありませんので、念のため)
家族で神戸まつりに行った。
このまつりでは、実に様々な団体が幅18mもある道路・フラワーロードを練り歩く。
阿波踊り、よさこい、獅子舞、体操、ラグビー、フットボール、カポエイラ、
一輪車、バトン、太鼓、フラッグ、ジャグリング、マーチング等々。
衣装も、普段着、お祭衣装、鎧甲、巫女服、ナース服、メイド服、何故かアニメコスプレ・・と多種多様!!
そして、やっぱり神戸といえばサンバチームを抜きには語れないっ!!
リオのカーニバルみたく、際どい派手派手衣装のサンバチームが結構参加しているのだ。
日本から見て地球の裏側に位置するブラジルは遠すぎて、なかなか行けるもんではないが、
神戸ならすぐ行ける距離だもんな。
ちょっと目の毒だとか思いながらも、際どい衣装に身を包み、腰を振り振り踊っている綺麗な
お姉さん達に釘付けになってる自分がいる。
露出部分が多くて刺激的で・・・そういう目で見るのは、お姉さん達に
失礼なんだろうけど、男ってやっぱり、スケベなんだよな~。
うぅっ、ごめんよ、お姉さん達。
・・・などと思いながら、隣のオヤジをチラリと窺う。
オヤジもなんだか鼻の下をのばしてるような気がする。
さりげなく見てたつもりなんだが、俺の視線に気付いたのか、オヤジがこっちを笑顔で見た。
うわ、勘、鋭~っ!
「やっぱり、いいよなー?な、お前もそう思わないか?」
ちょ・・・待て!何だ、なんなんだぁ?!
そんなアバウトじゃ、どう答えていいかわからねぇ~だろ~っ?!
一体、「何が」「どう」「いい」って意味なんだ?
どういう種の同意を求めてきてるんだ?!
「家族で外出する事」か?
「おまつりとかカーニバルの事」か?
そ、それとも・・・男同士って事で・・・
「際どい衣装を着たお姉さん達がブラボー!って事」か?
えーと、えーと、えぇーっと!!!
下手に答えるとバカを見るから・・・と、とりあえず無難に・・・
「あ・・・ははは、うん。すげー楽しいよ!
どの団体もすっげー楽しそうでこっちまで楽しくなってくるよなー。
サンバだけじゃなく、よさこいとかジャグリングとかも良かったし・・・
あっ、そうそう!パイレーツオブカリビアン風の団体なんかサイコーに格好良かったよなー!」
「そうか、そうか、お前、そんなにパレードが気に入ったのか!
実はな、父さんも毎日が祭ならいいって思うくらい祭好きなんだ。」
何とか話が通じたらしい事にホッとした。
・・・しかし、何故だ?
現実にはサンバの陽気な音楽が大音量でかかってる筈なのに、
オヤジの発言を聞いた途端に、俺の脳内で全く違う種の音楽がエンドレスで
かかりだした。
・・・北島三○の「まつり」が・・・
何でここで演歌なんだよ!と、自分で自分にツッコミをいれてると、オヤジがこんな提案をしてきた。
「それなら、今度は大阪の御堂筋パレードでも見に行くか?」
俺の脳内で「まつり」の音量が二割り増しになった。
「う・・うん。わ、わーい・・・嬉しいなー。」
「そうして、そこから全国のパレードを制覇だ!お父さんの野望全国版。」
「・・・い・・いや、そこまでしなくてもいいから・・・。」
確かに色んな所に連れてって貰えるのはありがたいと思うよ。
けど、家族での外出先が毎回毎回お約束のように人込みの中って!!
小さな娘も居るんだし、たまには広大な芝生が広がる人がまばらな公園だとか、
大自然の中でのんびりしようよ・・・頼むから・・・。
「安心しろ。別に誰も1年で制覇するとは言ってないだろう?
遠出するには家族4人分の交通費や宿泊費を捻出しなきゃならん。
コンスタントに出せるほどの稼ぎも無いし、お前らの教育費も要るし。
でも、長い年月をかければ夢じゃないぞー?
そうだな、エスプレ・・レクトロニッカルパレードとかも数に入れとくか。
わっはっは。きっと良い思い出になるぞー?」
エスプレレクトロニッカルパレードって、なんじゃ、そりゃ?!
某志○スペ○ン村と某U○Jと某T○Lの各々の某パレードをかけあわせて、
訳わからなくした感じのその名前はっ?!
エスプレッソカーニバルって名前での方がいっそ潔いわっ!!
・・・しかし、全国制覇って・・長い年月って・・一体、何年かける
つもりでいるんだ、おい!
オヤジの発言に心中でツッコミをいれつつ、老若男女入り混じりのパレードに再び目をやる。
しかし・・・何か見てる側より参加する側の方がめちゃくちゃ楽しげな感じがするのは何故だろう。
あ、サンバチームに男もいるんだなー、しかも音楽担当じゃなくて踊りの方かよ!
女と似たような羽根付き衣装で、胸は隠さずTバックで腰振ってるけど、あれって途中で我にかえって
恥ずかしくなったりとかしないんだろうか。
どっちかっつーと、男女ペアになってる男側の無難な衣装の方がいいなー、俺は。
マジシャンの白い正装姿を金ぴかっぽくして、タカラヅカ歌劇か!ってな、超どでかい羽根を背中に
背負ってさー、何か面白そうだよなー。
いいなー、俺もちょっち参加したくなってきたぞ・・・。うずうず・・・。
ふと、うちのオカンと妹の方に目をやると、やはり目の前のド派手なサンバチームに目が釘付けらしい。
2人共に目がやけにキラッキラしてるのが気になるが・・・。
何だろう、この胸騒ぎは・・・・。
まさか・・・
「自分達もやりたい!」
・・・なんて・・・言い出したりは・・・
しないよな・・・。
いや、大丈夫だ。うん!!
いくら何にでも感化されやすいからって、そこまで節操無しじゃないって。
・・・が、俺の認識が甘かった事が翌日になって判明するのだった。
俺と妹がリビングで情報系TV番組を見ながら妹と、オカン手作りのヘルシーおやつを
パクついてると・・・
「ただいまー」
「お母しゃま、おかえりなちゃい!」
「おかえり。朝から出かけてたんだろ?随分、遠出したんだな、母さん。」
「そうなのよー、なかなか見つからなくて、色んなトコ走りまわっちゃったわ。」
「色んな所を走り回ってまで一体、何買って来たんだよ?」
そう言って俺は席を立って、オカンの方を見た・・・・
ギャーッ!!嫌な予感的中ー!!!!
オカンが手にした紙袋に入っていたのは、大根やゴボウといった、いつもの食材ではなかった。
どこで仕入れてきたか知らないが、紙袋におさまりきらなかったらしい長い羽根羽根とか、
キランキランのサテン地とかスパンコールとかが見えたのだった。
・・・・あれは間違いなく作る気だ!サンバの衣装を作る気だーっ!!!
作ってどこで披露するつもりだーっ?!誰が着るんだ、それをーっ?!
それから毎日、オカンは時間さえあれば部屋にこもってミシンやら布やらと格闘していた。
・・・そして、三週間後。
学校の委員会で夕方遅くなってから帰宅した俺は、リビングへの扉を開けた瞬間、思わずカバンを
落としてしまった。
そこには、軽快なリズムの曲に乗せて、サンバの衣装を着た妹が腰振って踊っていたからだ。
・・・いや、いくら見たくなくても現実から目を逸らしてはいけないな。
実は、俺に衝撃を与えたのは妹の方ではない。どちらかといえばオカンの方だった。
妹とお揃いの衣装でちょっぴりメタボチックに肉がついたお腹を晒してオカンまでもが
腰を振って踊ってたのだ!!
やーーーめーーーれーーーっ!!
オカンが望むなら東京タワーにでも何でも連れてってやるから、それだけはやーめーれーっ!!
心の中で絶叫しているが、当然、オカンや妹には聞こえない。
一生懸命踊っていた妹は、気配を感じたのか俺に気付いて、声をかけてきた。
「あ、お兄ちゃま、おかえりなちゃい。見て見て~、これ、ちゅごいんでちよ、お母しゃまとお揃いなんでち!」
「あら、お帰り。ふふっ、どう?ここ最近で一番の力作よ。服飾学科で培った技術を
趣味に活かせるのは嬉しいわね。それにしても、サンバの振り付けってキクわねー。
通販のブルブルするヤツ、もう買わなくても良さげな感じよ♪
衣装の効果もあってか超ノリノリで気ン持ちいい~♪」
ギャーッ!!!ごめんなさい、ごめんなさい!!
この間、母さんが体全体をクネクネさせてデューク歩きしてるの、気持ち悪いなんて言ってごめんなさーい!!!
あっちの方が今の百万倍はマシでしたーっ!!
もう、あれに二度と文句なんかつけないから、許して下さーーい!!!
通販のブルブルを買おうとしてた時もすぐ飽きるくせにって反対してごめんなさーい!
俺にお肉が見えない状態でブルブルする分には賛成でーーーす!!
だからそれだけはやーーめーーてーーーっ!!!
俺が硬直したままでいると、俺が帰宅した直後に帰って来たらしい、オヤジが立っていた。
『ここは一発、父の威厳を示して何かガツンと言ってやってくれー、母さんのご乱心を、暴走を
止めてくれー』という念を目に込めてオヤジを見つめると、オヤジは『任せろ』とでも
いうように俺の肩をポンと叩いてニッコリ笑ってみせた。
その様子に一瞬ホッとしたのも束の間・・・
「グッジョ~ブッ!!母さん、惚れ直したぞっ♪」
「あら~ン、ありがとっ♪お父さんの為にも痩せてもっと素敵になるからね♪」
ギャーッ!!!このバカップルがーーっ!!!
期待を見事に打ち砕かれた俺は脱力して、その場にヘナヘナとへたりこんだ。
「お兄ちゃま、大丈夫でちか?」
妹が傍に駆け寄ってきて俺の頭を撫で撫でする。
「お前の格好、可愛いな。」
思わず口をついて出てしまった。
そう、妹の衣装はなんか妙に似合ってて可愛かったんだ。
今はそんな事、考えてる場合じゃないってのにな・・・・。
「えへへ。ありがとでち。
えーっとぉ・・・あのね、お兄ちゃま。布とかちょっと余っちゃったんで、お母しゃま、
お兄ちゃま用の衣装も作ったらちいんでちよ。見てみまちか?てーばっくとかいうやつ
だって言ってまちた。お兄ちゃまもちぃちゃん達と一緒に踊りまちぇんか?」
ひぃぃぃ~~っ!!!!ショーック!!!!!!
お前ら、俺をパ○ディウスのチチビ○タリカにでもしようと企んでいるのかーーーっ!!!
俺は無性に世界の中心で、神様ヘルプ!と叫びたくなった。
いや、この際、贅沢は言うまい。神様じゃなくてもいい!
誰か、誰か、助けてくださーーーいっ!!!
アニキの受難は続く・・・?!
ついでに小っちゃ~く、オカンやアニキも描こうかと思ったのですが、
皆から一斉に引かれたら困るなーと思い直し、ちぃちゃんだけにしておきました。
さぁ、次回もしつこく続けちゃおうっと!(笑)