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種子島にて:インターネットというメディア ストリーミング中継を体験してわかったこと [Tuesday, February 24, 1998 松浦 晋=日経MAC]
姿を現したH-IIロケット なかなか「どうやら出来そうだ」というところまで準備を進めることができず,告知が実施の直前となってしまった種子島からのReal Videoのストリーミング中継だが,幸いかなりの方に見ていただけたようだ。「迫真の打ち上げを見ることができました」というメールを多数頂いた。秒1コマほどの紙芝居程度の画像で音声も電話よりもひどい程度の中継だったが,動画像が「送れる」のと「送れない」のとでは大きな差があることを実感した。中継に協力してくれた宇宙開発事業団(NASDA)に感謝いたします。 打ち上げそのものは残念なことに,日本としては1975年に大型ロケットの打ち上げを開始して以来初めての「ロケットが原因の打ち上げ失敗」となってしまった。 今後「ロケット開発など日本が巨費を投じて行うべきことか」というような議論が起きるだろうが,一言意見を言うと「そもそも技術開発はこういう危険を常に抱えている」ということに尽きる。H-IIロケットは成功率95%を前提に設計されている。取材に来ていたSF作家の笹本祐一氏が,プレス・センターで見事な要約をしていた。「つまり95%ってのはこういうことか」。その通りだと思う。 ちなみに事故の情報については「NASDA最新情報」(http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/pressindex_j.html)でほぼ即日公開されている。新しい情報が次々に追加されているので,マスコミが流さない「事故のその後」を知りたければ毎日アクセスしてみよう。NASDAは打ち上げについても定点観測カメラで情報を流していた。特殊法人であるNASDAの情報公開のあり方を知りたい向きは「NASDA打ち上げ速報ページ」(http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/saishin3_h25f_j.cgi)を見てみよう。 以下本題だ。今回ストリーミングとQuickTime VRによるVRムービーとを種子島からインターネットに流してみた。結論から言えば,これらはインターネットにおける報道の次の形として有望なのではないかということを私は実感している。 以下,今回の実践を通じて得た知見をまとめていくことにする。 テキストと静止画像——膨大な人類の知的蓄積 インターネット上の情報の形態を考えてみよう。まずテキストがある。次いでJPEG/GIFファイルに代表される静止画像情報がある。実は過去数千年に渡って人間が営々と蓄積してきた情報のほとんどが,これらに含まれてしまう。つまり過去の「人間の英知」はこの2種類でほとんど表現可能ということだ。文字コードがその文字を表現できるかどうかという非常に重大な問題はあるが,基本的にはこれで人類の知的活動のほとんどがインターネット上で公開することが可能になる。World Wide Webがあれほどの衝撃を持って受け入れられた理由はここにあると言えるだろう。 さらにはテキストや画像を作る技術は非常に多くの人々が持っている。つまり情報の裾野が広い。さらには,テキストや静止画像を作成する膨大な技法もまた蓄積されているのでその頂点も非常に高い。テキストも静止画像も「誰にでもできて,しかも奥が深い」のだ。 これまでの取材で会った人の中にも,松江警察署の松田修平さんのように「Webはテキスト主体で深い内容を」と主張する人がいた。その背景には上記のような理由がある。 動画像と音——ここ1世紀のメディア これが動画像や音になると,ずっと歴史が浅くなる。リュミエール兄弟による映画の発明以降だからせいぜい1世紀といったところだ。音は音楽というように考えるとそれこそ人類の歴史と同じぐらい古いが,より広く情報伝達に使う音情報とすると,グラハム・ベルによる電話の発明,あるいはエジソンによる蓄音器の発明以降ということになる。やはり歴史は1世紀といったところだ。 文字や静止画像に比べると文化的な蓄積は浅い。日本人で文字の書けない人はほとんどいないが,ビデオ・カメラでどのような映像を狙うときれいな画像が撮れるかを心得ている人はさほど多くない。音声情報も正しく伝えるためにはアナウンサーに代表される特殊な技能が必要になる。 それでも発明されてから1世紀ともなると,かなりの情報資産とノウハウが蓄積されている(ピンとこない方はハリウッド映画の歴史を考えて欲しい)。インターネットではQuickTimeに代表される動画像や音声情報流通の仕組みはかなり早い時期に整備された。ただしここでの動画像はある意図の基に編集されたものが対象となる。なにしろ動画像ファイルがサイズが大きくなるので,容量の小さなファイルできちんと相手に自分の意図を伝えるためには編集作業は不可欠だ。 インターネット時代の新しい動画像と音——ストリーミング これに対してストリーミングは,インターネットがなければ実現できなかった新しい動画像や音の伝達形態と言えるだろう。というのは,ストリーミングは基本的に編集なしに「今のあるがままを『だらだら』と伝える」のに向いた媒体なのだ。ここにはReal VideoやVXtremeに代表されるストリーミング技術のみならず,定点観測カメラのようなメディアを加えてもいいだろう。ここでは情報の送り手が情報の編集を行わず,情報の受け手がいつ,どの情報にアクセスするかによって情報を編集する。ストリーミングとは編集により「情報を的確に圧縮して伝える」ことを放棄する代わりに,情報の受け手に情報選択の自由と情報解釈の自由を与えるものなのだ。 今現在,インターネットで行われているストリーミングは,きちんと編集された番組を流すやり方が一般的だ。しかしこれは過渡的な形態で,いずれよりインターネットの回線が太くなりストリーミング・サーバーが一般的なものになれば,「流しっぱなし」のほうが普通になるのではないかと私は考えている。例えば,3年ほど前にオウム真理教関係の事件が続いた時,東京・青山のオウム真理教本部前にもしもカメラが設置されストリーミングしたら,とんでもないアクセスを集めたのではないだろうか。 しかしそこに至るまでに整備しなくてはならないインターネット・インフラストラクチャ−は膨大なものになる。ストリーミングが大量のパケットをインターネットにまき散らすということを考えると,家庭にはMb/秒クラスの回線が入り,幹線ではギガビット/秒やその上のテラビット/秒の速度が必要になるはずだ。 道は遠いが,技術的にはあり得ない話ではないと考える。 インターネットでしかあり得ない新しいメディア——インタラクティブなメディア 最後に,インターネットでしかあり得ない形態の情報がある。情報の受け手からの要求に応じるメディア,インタラクティブなメディアだ。米Macromedia社の「Shockwave」や「Flash」,QuickTime VRなどがこれに相当する。ただしShockwaveやFlashが基本的にグラフィックス,つまり「インタラクティブな絵画」を指向しているのに対して,QTVRは「インタラクティブな写真」を目指している。今回種子島から行ったような報道の色彩が強い情報伝達には,QTVRのほうが向いている。 今回実際にVRムービーを作成して驚いたのは,ムービーの作成が実に簡単なことだった。全周を撮影するのが多少面倒だが,データが出来てしまえばあとは「QuickTime VR Authoring Studio」を使って1時間少々で臨場感十分のVRムービーができてしまう。人間のように動く対象に適用するのは難しい(今回作成したVRムービーでも人間がぶれていたり,頭が2つ写ったりしている)が,それでもその臨場感は他には代え難いものがある。なぜ,これからインターネット上のニュース・メディアでは必要不可欠なものになるのではないかと思わせる。 QuickTime VRの発表からすでに3年が過ぎている。Appleはなぜ,ここまでQuickTime VR Authoring Studioの発表を遅らせてしまったのか。なぜ,Authoring Studioで生成されるVRムービーをWebブラウザー上で再生する「QuickTime Plug-in2.0」の配布が遅れているのか。VRムービーの効果を実地で体験しただけに,ここらへんのAppleの商売の下手さは見ていて歯がゆくなるほどだ。 実際に自分の手で行ってみて,初めて分かることもある。今回種子島の報道現場でストリーミングとVRムービー作成を行ってみて,これらの技術の可能性と向き不向きなどを実感することができた。 最後にNASDA提供の打ち上げ動画像を掲載する。最初がQuickTime画像,2.2MBある。次がReal Videoによる画像。日経MACのWebサーバーにファイルを置いてあるだけなので,ファイルをすべてダウンロードしてからヘルパー・アプリとして「Real Player」が起動する。 最後にReal Videoサーバーを使ったストリーミングによる画像。こちらはドリーム・トレイン・インターネットのサーバーに間借りしているので,2月末日までのアクセスとなる。
●ムービー1
●ムービー2
●ムービー3 日経MAC本誌特集執筆のために,次の掲載は3月初頭になる予定だ。かなりの数のメールを頂いているので,この連載企画の最終回として,読者の疑問・質問を共に考えてみたい。 (98.2.24 種子島から戻った東京にて=松浦 晋)
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