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解説:iMacの販売で何が起こっているのか?
[Friday, August 21, 1998 山田 剛良=日経MAC]

出荷が目前に迫った,新しい一体型マック「iMac(アイマック)」の新しい販売方法がユーザーのみならず販売店,流通関係者の間に様々な混乱を起こしている。

ことの起こりは98年7月23日に発表されたアップルコンピュータ(http://www.apple.co.jp/)と島村楽器(http://www.shimamura.co.jp/)との提携(http://www.nikkeimac.com/hotnews/9808/shimamura.hts)である。

当初は単なる販売協力と思われた。iMacを販売するにあたり,全国に50数店舗を展開する楽器専門店にiMacを並べれば,音楽に関心が高い新規ユーザー層を獲得しうる。この種の提携は過去にも行われている。例えば96年10月から始まった大手家電チェーン,コジマ(http://www1.toppan.co.jp/kojima/)との提携によって,一般的な消費者にマックを販売した(日経MAC1996年12月号参照)。

しかしその2週間後の8月6日,新しい提携先としてパソコン販売大手のT・Zone(http://www.t-zone.co.jp/)の名が追加されるに至って,今回の提携が従来と大きく異なることが分かってきた。あえて従来からアップル製品を扱ってきた同店の名を挙げたことにより,iMacに関しては「アップルがiMacの販売店として提携した店舗のみで販売する」(アップルコンピュータ事業推進本部本部長の福田尚久氏)というアップルの方針が明らかになったからだ。

iMacからは従来と異なる流通経路を採用

決定的な違いは,すでに実績のあるマックの販売店でも新たにアップルと提携を結ばなければiMacを扱えないという点だ。平たく言えば,今現在マックを販売しているあなたの近所のお店ではiMacが手に入らない可能性がある。現在の混乱の本質はこの点に尽きる。

8月19日に発行した一連のプレスリリースの中でアップルはiMacの販売について「購入申し込みの受け付け」という表現を使い,iMacが事実上の受注生産であることをにおわせる。実際にアップルは,シンガポール工場で生産したマックを(時間のかかる船便ではなく)航空便で輸入するテストを行い,売れる分だけ作って送るやり方に自信を持っている。

プレスリリースにはまた「8月29日より以前にiMacの予約販売を行う予定はありません」という販売店の先行予約を牽制する表現もある。実は秋葉原や日本橋でマック専門店を運営しているソフマップやラオックス,新宿や池袋のビックパソコン館,ヨドバシカメラといった販売店は「発売日,価格は未定である」という説明をした上で,19日以前に顧客からのiMacの先行予約を受け付けてしまっている。20日現在でこれを止める動きはない。「予約の受け付けや販売に関して,アップルや取り引きのあるディストリビューターから事前に特別な要請は受けていない。これまでの商慣習から考えると,iMacが発売日に入荷しないはずはない」(販売店)という考えからだ。

8月20日限在,iMacの販売に関してアップルとの提携を正式に発表済みの販売店は,前述の島村楽器店,亜土電子工業のT・Zoneのほかはパソコン・スクール「マルチメディアスクールFUSE」だけだ。FUSEへは,三菱商事系列のディストリビューター,エムシーパソコン販売を通じてiMacを供給する。

この中で純粋なパソコン販売店はT・Zoneだけ。そのT・Zoneにしても全店で扱えるわけではない。当初はアップル館の4店舗のみ。日本橋のニノミヤに至っては,8月29日にアップルと共同でiMac出荷イベントを行うと決定しているにもかかわらず,販売提携については「現在交渉中」(アップル広報,8月19日現在)となぜか不透明だ。

ラオックスやソフマップ,ニノミヤ,ツクモといった店はいずれもマック専門の店舗やフロアを持つ大規模店。これらの店で発売日にiMacが並ばない事態も十分予想できる。しかも,iMacの販売提携に関してアップルとの個別交渉が必要なら,全国に散らばるMac Mastersを含めた中小の販売店すべてとなると,少なくとも数カ月の準備期間が必要になる。提携第1号の島村楽器との交渉にアップルは3カ月を要している。8月29日にこれまでマックを売ってきたすべての販売店にiMacが並ぶとは考えにくい。

とにかくなじみの販売店に予約したユーザーが,発売日にはりきってiMacを買いに出かけても,ムダ足に終わることになりそうだ。

iMacをキッカケに流通改革をもくろむ?

iMacの流通に新たな方式を持ち込む理由についてアップルは2つのメリットを挙げる。

1つはユーザー・サービスの向上。「iMacのことを十分に理解してソリューションとしてユーザーに提案できるスキルの高い店員のいる販売店」(福田氏)と提携を結ぶことで,ユーザーに対してきめ細かいケアができる。

もう1つは流通コストの削減。iMacは「シンガポールの工場からほぼ毎日,飛行機で日本に輸送し,税関通過後,空港から各iMac販売店に直送する」(福田氏)方式を導入する。在庫は各販売店が数日分だけ持つ。中間流通業者のマージンがなくなり,流通在庫が大幅に減る。売れ残ったマックの処分費用も抑えられる

現在のアップルの国内流通はディストリビューター(1次店)を使い,各販売店(2次店)に卸す仕組みをとる。それ以外のアップルと直接取り引きし自社の販売網を使って商品を売る系列はディーラーと呼ぶ。しかし実際はそれほど単純ではなく,ディストリビューターの多くはディーラー機能を兼ね備えており,販売店は複数のディストリビューターから商品を仕入れる構造になっている。この複雑さがアップルの流通政策をことごとく失敗させてきた一因である。  福田氏の言葉を素直にとると,iMacの販売では原則としてディストリビューターを使わず,販売店と直接取り引きを行う可能性が高い。つまりすべての販売店をiMacディーラーとして遇するのだ。従来方式と決別する理由の1つはおそらく価格にある。

iMacのメーカー希望小売価格17万8000円は,米国の価格1299ドルと現在の為替レートを考えると,驚異的な低価格である。実現には「流通改革と一体になったコストダウンが必要」(福田氏)なのは明らかだ。さらに言えば,この価格では10%前後といわれるディストリビューターに対するマージンを支払う余裕がほとんどない。

ただし,ディストリビューターを通さず,2,3日のサイクルで販売店に直接納入する新しい流通方式を実現するには,いくつかハードルがある。

まず,販売店のオーダーをリアルタイムでアップルが把握するシステムがいる。これはおそらく,準備中だったWeb通販「日本版Apple Store」の仕組みを応用すると見られる。しかし,これまでディストリビューターに任せきりだった販売店との個別交渉はアップル自身が行う必要がある。

販売店側は,オンライン・オーダーに対応する端末や新たな決算システムの導入が必要だ。従来の商慣習は変えざるをえまい。販売員の再教育を強いられるケースがあるだろう。

何よりの問題はディストリビューターである。これまでディストリビューターは製品を販売店に卸すだけでなく,販売店の持つ消費動向の情報をまとめて,メーカーに送る機能を持っていた。新しい流通方式ではこの両方をアップルと販売店が直接やり取りする。ディストリビューターの出番はない。自身の存在価値を否定されて,ディストリビューターが簡単に納得できるとは思えない。しかも,iMacでうまく行けば,アップルが新しい流通方式を全製品に導入するのは火を見るより明らか。その先に見えるのは日本版Apple Storeの導入である。

iMacの販売提携がなかなか進まないのは,このあたりのコンセンサスがなかなか取れないからではないだろうか?

目的はディストリビューターの整理か?

アップルは「iMacを契機に業界全体が活性化するようなビジネス・モデルを改めて構築したい」(福田氏)という。これは新しい流通方式をいずれはアップルのすべての製品に導入したい,という意欲の現れだ。

ただ,アップルが今回,どこまで流通改革を進めるつもりなのかがいまだに見えてこない。シナリオは2つある。1つはiMacを契機に,従来のディストリビューターを完全に整理し,すべての販売店をディーラー化するパターン。もう1つは大口の販売チャネルをすべてディーラー化し,残りを選別された少数のディストリビューターに任せるパターンである。iMac発売までの残り時間を考えると,後者に近い線で落ちつく可能性が高い。

米国では一足先に流通の再編が進んでいる。97年10月の段階で米Apple Computer社が取り引きする全国規模のディストリビューターは一気に2社に絞られた。それとは別に大規模な販売チャネルとは直に取り引きを行うようにした。販売店は,CompUSAのようにスキルの高い店員を用意し,ストア・イン・ストア(マック関連製品コーナーを独立させて店舗内にミニ店舗を置くやり方)で販売する店を優先する方針を取った。

約1年を経て,米国の流通網はほぼAppleの意図通りに整備されつつある。この成功が米本社からアップルへの圧力を増しているのは想像に難くない。

ただ,米Appleが流通の再編を強引に進めたのは,Apple自身がどん底の状態にあった時だ。マックに消極的な販売店やディストリビューターは自主的に手を引いてくれやすい状況にあった。Appleが少々強気に出ても反感を買いにくくかったはずである。

現在の国内の状況はそれとは異なる。アップルはiMacという「売れそうな製品」を見せてしまった。その上で販売店の足元を見た高圧的な要求を突き付けているように見える。これでは,ディストリビューターや販売店は,新方式に素直に従いにくい。

新製品が店頭に並ばない,あっという間に店頭価格が下落するなど,アップルの流通政策(の力の無さ)についてはかねてから批判が多かった。ようやく重い腰を上げ,主導権を自身の手に取り戻そうという意図は理解できるし,評価もできる。しかし現在の混乱を見ると,改革に失敗し,元のサヤに収まってしまう可能性がある。無意味な混乱でせっかくの機会が失われなければいいのだが。

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This page was last updated on Mon, Sep 21, 1998 at 17:12:36.
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