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メーカーを「Think different.」した Dellのビジネス・モデル [Wednesday, April 15, 1998] Appleが98年から日本でも始めたキャンペーン「Think different.」は,人類の進歩の根源であり,非常に大切な発想方法を説いている。つまり「他人と違うことを考えよ」である。Appleのキャンペーンでは主に社会運動,科学技術,芸術文化の面で強調している。これはすばらしいことだ。 「Dell方式」はいわば,マネー・カルチャーからメーカーの在り方を「Think different.」した成果なのだ。 確かに,表面上はメーカーによる直接販売であり,通信販売である。しかしそれだけだと理解するのは不十分。BTO(Built to Order=受注生産)方式を含めて,すべては付随的な事柄にすぎない。卸売業者を通さないからそのマージンの分だけ安くできるというメリットすら,単なる副次的効果だ。すべては,真の目的を達成するための手段。その意味で「Dellのビジネス・モデル」という表現が正しい。 では真の目的とは何か? 簡単に言ってしまえば「お金儲け」である。それも資本主義の権化=アメリカ合衆国流のお金儲けだ。Dell方式とは,株主資本収益率を極大に高めた上で,利益を効率的に上げる方法論(ビジネス・モデル)なのだ。
すべての「在庫」をゼロに近づける 資本収益率を高く確保した上で利益を上げるために必要な手段は,1つのキーワードで理解できる。あらゆる意味での「在庫を減らす」ことである。 研究・開発・設計資産の在庫,部品の在庫,製品在庫,流通段階での在庫,店頭在庫。これらは望まれた商品をすぐに供給するための必要悪ではある。しかし,すべて資本が資産に化けたものであり,資本収益率を悪化させる。それらには顕在的あるいは潜在的な金利がかかり,利益を減らすからだ。 パソコン業界の特徴は,技術進歩の異常な速さとそれに伴うコスト・ダウンである。この結果,在庫がその金利以上に利益を圧迫する致命的な影響をもたらす。 例えば,パソコン業界では,研究・開発・設計資産が3年もたってしまうと無価値になってしまう。特にハードウエアの進歩は速いので,こういった事例は身の周りにごろごろしている。 部品の在庫はもっと分かりやすい。ハード・ディスクやメモリーが1〜2年で半額になるなどは日常茶飯事。これなどは金利換算で年利50〜100%に相当するのではないだろうか。とんだ高利貸しだ。さらにこわいのは部品が時代遅れになり,使えなくなることである。 製品在庫,流通段階での在庫,店頭在庫はさらにシビアだ。 PCのマーケティングで「3・6・3の法則」という言葉がある。商品開発から発売まで3カ月,販売期間6カ月,在庫処分に3カ月という意味で,つまり商品サイクルは1年にすぎない。現在ではもっと速いサイクルになっている。 倉庫で,問屋で,お店の陳列棚で,商品がホコリをかぶっている間に,売れる値段はどんどん下がる。PC業界では仕方なく赤字承知の在庫処分にまわされる製品がとても多いのだ。 こういった厳しいPC市場で,卸売業者(ディーラー)や代理店(リセラー)を使う従来型の流通方式を採用しているメーカーの在庫は,
製造業者=約39日分 と言われている注1)。 彼らに対して,Dellはたった12日分なのだ注2)。以下に述べるように,完成した製品は即ユーザーに向けて出荷されるから,この12日分というのも,部品在庫と仕掛品であり,製品在庫はほぼゼロと思われる。 単純に計算して,(39+59)−12=86日分の全在庫量に対する金利と資本の滞り,また86日分の部品や製品の値下がり,そして商品の陳腐化....。差は歴然である。
注1)「マネーカルチャー」マイケル・ルーイス著(邦訳は角川書店,1992年)。 注2)「THE ART OF TAKING CHANGE」THE HEIDRICK &STRUGGLES LEADERSHIP JOURNAL, VOLUME TWO, NUMBER 1, MARCH 1997。 記事目次/前のページ/次のページ この記事は、日経MAC98年5月号(98年4月18日発行)掲載記事の抄録です。 |
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