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PC流カンバン方式の導入
立地を生かして低コストで実現

[Wednesday, April 15, 1998]

さてここで重要なのが,到着した部品がすぐに組み立てに回されるという点である。このためには必要な部品が必要な時に供給されなければならない。

Michael Dell会長兼最高経営責任者(CEO)は最近のインタビューで,この仕組みは,トヨタ自動車のカンバン方式に習ったものであると打ち明けている注1)。トヨタを世界一の自動車メーカーに押し上げたこの方式は,生産技術の世界では有名。「必要な時に必要な部品を」というわけで,JIT(Just In Time)生産方式とも呼ばれている。

とはいえ,JIT生産方式自体は,このPC業界でも何も目新しくない。Dell方式の新しさは,立地条件とIBM-PC互換機の特殊性を最大限に生かして,生産面におけるJIT生産とダイレクト・マーケティング,それから物流(宅配便)を組み合わせた点にある。

実は,米Compaq Computer社はかなり以前から同社の製造ラインにJIT生産を実践していた。Texas州Houston市の同社周辺には,Compaq向けの部品メーカーの工業団地が形成されている。ちょうど愛知県豊田市周辺のようだ注2)

この部品メーカー群を有効活用したのがDellなのだ。Houston市からDellのあるAustin市まで車をとばして2時間,またそこから全米有数のハブ空港であるDalas/Fort Worth空港までも3時間くらい。Dell方式は,いわゆる「Sun Belt =米国南部のハイテク新工業地帯注3)」だからこそ可能だった。

いくらメーカーが部品を欲しがっても部品メーカーになければどうにもならない。そうなのだ。DellのJIT生産は,どのメーカー向けの部品でも大きな差異がないIBM-PC互換機の独特の要因がうまく作用している。

部品メーカーはDellが勝とうがCompaqが勝とうが関心はない。そもそも1社のためだけに部品を作り込んでおくのはリスクが大きすぎる。

だが,同じ部品をDellとCompaqの両方あるいはその他のすべてのメーカーに売れるならリスクは小さくなる。納入先はトレーラーの運転手に告げるだけで済む。これが自動車とパソコン(IBM-PC互換機)の一番の違い。そうなれば,部品メーカーはもともと見込まれるパイ(市場)の大きさで部品の需要予測を行えばいい。生産規模が大きくなればコストも下がる。


注1)「週間ダイヤモンド」97年12月27日/1月3日新春合併号,155ページ。

注2)「コンパックの奇跡」岩淵明男著,オーエス出版。

注3)おおまかにGeorgia州Atlanta市→Texas州Austin→Arizona州Phoenixを結ぶ一帯。


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この記事は、日経MAC98年5月号(98年4月18日発行)掲載記事の抄録です。

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This page was last updated on Wed, Apr 15, 1998 at 10:54:49 PM.
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